単語の暗記

辞書を一度読んだだけで覚えれるなら

理想の単語暗記法は、でかい辞書を用意して1回通しで読んで語義・用例まで丸暗記することです。
もちろんこんなことは現実的ではありません。
では、なぜ現実的ではないか考えてみます。


1 範囲が大きすぎる
人によって覚えておいたほうが良い単語の数は違います。そして、辞書丸々1冊分の語彙数が必要な人は非常に限られています。
多くの人は出現頻度が高い単語だけを手っ取り早く覚えたいので、辞書では対象範囲が大きすぎます。


2 1回読んだだけでは暗記できない
何かを暗記するには反復が必要です。反復には時間と労力が必要です。
どんなに効率の良さそうな暗記法であっても、暗記する人が途中で挫折して反復できないなら意味がありません。
辞書の扱う範囲は反復には向かないほど大きいのです。


また、いったんは覚えたとしても、その単語に出会う機会がないとまた忘れていきます。
このため、自分が普段読むレベルの英文に出てこないような出現頻度の低い単語は、覚えるだけ無駄になってしまいます。
覚えることも大事ですが、その知識を維持する労力も考慮に入れる必要があるのです。


3 単語を一度暗記しただけではすぐに意味が出てこない
1箇所で覚えただけの単語は、別の場所で出会ってもすぐに意味が思い浮かぶところまで深く記憶していないことが多いです。
また、単語は過去形になったり複数形になったり品詞が変わったりいろいろ変化するので、そういった形にも目を慣らしておく必要があります。

一度単語を暗記したらあとは英文がスラスラ読めるようになるかというと、そんなことはありません。
暗記は重要なことですが、暗記が目標になったり暗記して完璧にすればそれで終了ということはないのです。
したがって、暗記したから完璧になるのではなくそれはただのスタートラインに立っただけで、そこから実際に何度も読んだり書いたりするうちに徐々に完璧になっていくものだと考えたほうがいいと思います。


4 その表現が英文の中でどう使われているかは辞書だけでは分からない
辞書に載っている語義・用例は網羅的に列記されています。
例えばとりあえず一つの意味だけ抑えておけばなんとかなるような単語でも、ほかのより頻度の低い意味と同じように列記されています。
こうなると、情報の重要度にメリハリがないせいでまず当面重要なのはどこなのかが見えづらくなってしまいます。
この重要度は実際に読んだり聞いたりする経験からちょっとずつ自分の生きた知識になってくるものなので、この意味でも丸暗記はスタートラインだといえます。

単語帳が使いものにならないのはなぜか

単語を覚える方法として真っ先に思いつくのは単語帳です。
単語帳といえば「覚えづらい」「覚えてもすぐ忘れる」「単語の意味だけ覚えても無意味」「文脈の中で覚えるべき」といったようなこともあわせて語られることが常です。
単語帳はたくさん出版され続けているのに、批判の対象にもなっているのです。
なぜでしょうか?


私が思うのは、こうした単語帳にまつわる批判は、前述したような辞書を一度で暗記する方法がいかに現実的ではないかというポイントと同じものではないかということです。

・単語帳で単語が覚えづらいのは、その人にとってその単語帳に載っている単語量が多いからです。
また単語帳に載っている情報の中に、記憶のとっかかりになる部分が少ないからです。

・単語帳で単語を覚えてもすぐに忘れてしまうのは、反復しないからです。
反復できないのはその人にとって量が多すぎる単語帳を選んだからです。
また、その人が普段目にしないような質の高すぎる単語帳を選んだからです。

・なかなか単語帳で単語の暗記が完璧にならないのは、そもそも単語帳では単語の暗記が完璧になることはないからです。
単語帳でいったんは覚えたとしても、そこから膨大な読み聞きを通すことではじめて本当に覚えた、自分のものになったということができるのだと思います。

例えるなら、単語帳での暗記はまん丸のボールの表面に鉛筆で意味を書いただけのようなものです。
そんなものはほっておけばすぐに消えてしまいます。
長い時間かけて表面がでこぼこになってとっかかりができてようやくそのボールの特徴が出てくるのです。


単語帳で暗記できないのは、その人にとって暗記帳が辞書と同じような扱いづらいものになっているからです。
辞書が覚えられないなら、単語帳も覚えられるわけがありません。
本来、単語帳には辞書と異なる特徴があるので、そこを生かさずに結果的に辞書暗記と同じように使えば、それは使いづらくて当然です。

結局のところ単語帳は役に立つのか?

単語帳が辞書と違うのは、
・単語帳は出現頻度などのテーマに沿って単語を選んでおり、辞書より情報量が厳選されている
・情報量が少ないので比較的反復しやすい
・実際の読み聞きを経ないで暗記するのは辞書と同じだが、例文を載せることで単純な丸暗記にならないようにしている
という点です。


大学受験や資格試験対策において、単語帳は非常に役に立ちます。
この状況では勉強に使える時間がとても少ない分、必要な単語量も限定されているので、出現頻度順になっている単語帳を使うと効率がよくなるからです。
また、時間がなければ英文を大量に読むことも難しいですから、英単語と日本語訳だけが羅列されている単語帳よりは例文付きのほうが覚えやすくなります。


これに対して、洋書を読むために単語を覚えるなら、時間は比較的たくさんあるけれども必要な単語数も多くなります。
単語帳での暗記をとっかかりにして、いずれ文中で単語に出会うことで本当に覚えていく方法が取れるので、ここでも単語帳の出番は十分にあります。
英文をたくさん読むので例文はなくてもかまいません。

ボキャブラリーが増えていくにつれて市販の単語帳は使えなくなっていきますが、自分で単語帳を作ることはできます。
自作の単語帳といっても必ずしも本格的なものである必要はありません。
何回か目にしたけど意味は思い出せない単語をメモにしておくだけでも立派な単語帳です。
1.自分の知らない単語を把握して、2.一覧性を高くすることで反復しやすくし、3.反復して記憶のとっかかりを強制的に作れるのが単語帳の長所だからです。
このやり方だと、洋書を読むのは作者が出題する壮大な単語試験のようにも思えてきます。


このように、単語帳が必要か不要かというのは人それぞれとしか言いようがありません。
また、単語帳のせっかくの長所を生かさない使い方をしているにも関わらず、短所だけに注目して単語帳は無駄だという結論に達するのはそれこそ無駄です。
したがって、スローガンのように「単語帳はいますぐ捨てましょう」「例文で覚えましょう」といっても残念ながら何の意味もありません。