ペーパーバックが読めるようになるための身も蓋もない英語学習法

受験で英語が得意だった人が社会人になってからペーパーバックを読めるようになりたいと思ったら、どんな方法があるでしょうか?
ここではそのやり方を書いていきます。


0.ペーパーバックを読むためにしなければいけないこと
ペーパーバックを読むためにしなければいけないことは主に3つあります。
それは、

  • 知ってる英語表現を増やす
  • その知識を見てすぐに理解できるようにする
  • そうした知識・能力を維持する

ということです。


そして非常に厄介なことに、この3つの作業はペーパーバックなどの英文を読むことで達成されます。
つまり、英文を読むための能力は英文をたくさん読むことで獲得できるのです。本来は。
ただそれだといつまでたっても“英文を読む→ちょっと読めるようになる→さらに読む”という拡大再生産ループに入れないので、たいていは単語帳や文法書を使って英文を読む下準備をするわけです。


そんなわけで、普通の英語やりなおし組なら仕方なく軽めの単語帳や文法書からもう一度おさらいするのですが、受験で英語が得意だった人は状況が少し違います。
というのも、英語が得意だった人はすでに高校でそういう基礎を終わらせているので、いってみれば“英文をたいした量読んでないくせに英文を読むための能力はそこそこ身に付いている”状態だからです。


1.どのあたりを目標にするか
まず、“ペーパーバックが読めるようになる”というのは漠然としているので、“ペーパーバックをほぼ辞書なしでスラスラ読んで理解できる”と言い換えましょう。


(1)ほぼ辞書なしで
もちろんペーパーバックに出てくる単語が全部分かるようになんてならないことは誰でも知っていると思います。
で、おそらく目標とする現実的なレベルとしては、知らない単語は飛ばしながらそれでいてストレスなくストーリーに付いていける、というところでしょう。
そしてこれは実現できます。
ただし、知らない単語がどうしても気になる体質だと、“ストレスなく”のところでひっかかって最終的に辞書暗記に行っちゃうかもしれません。


(2)スラスラ読んで
もちろん日本語を読むのと同じスピードで英文を読むなんてそんな簡単にできないことも分かってると思います。
で、おそらく目標とする現実的なレベルとしては、知っている単語はしっかり理解しながらそれなりの読速でストレスなくストーリーに付いていける、というところでしょう。
そしてこれは実現できます。
ただし、200WPMでも遅いと感じてしまう体質だと、最終的にフォトリーディングとか速読術に行っちゃうかもしれません。


(3)理解できる
内容理解についてはあまり妥協せずにできるようになりたいんじゃないかと思います。
もちろんアメリカに住んでなきゃ分からない知識とかそんなのはひとまず置くとして、少なくとも手持ちの知識を組み合わせて分かる範囲内で、書いてある内容を理解できるようになりたいのではないでしょうか。
そのためには、知っている英語表現・文法知識を増やしたり、それらをうまく組み合わせる方法を身に付ける必要があります。


終わりの方でもう一度書きますが、まずは理解できているかの判断は主観的でいいです、というか最初から完璧に読むとか考えてたらなにも始まんないです。
というのも、変に突き詰めると“内容を理解できてるなんて思うのは主観的にすぎない、知的正直にありたい=すべての単語・文法を理解しなきゃだめ”などと言いはじめたりするので難しいのです。
だからそういうのもコミコミで、ひとまずは洋書を最後まで読み通して面白かったとかつまらなかったとかそんな感想が言えるなら“理解できた”“読めた”と考えていいと思います。
そしてそのレベルの英文理解は実現できます。ちゃんと継続しさえすれば。


2.ペーパーバックを読むために何が足りて何が足りないか
受験で身に付けた英語とペーパーバックで使われている英語との間にどれくらいの差があるのでしょうか?
つまり、ペーパーバックを読むために何が足りて何が足りないでしょうか?


リーディングで必要なのは、なにより単語(+英語表現全般)と文法です。
そしてそれぞれ知識量と瞬発力が要求されます。英語の読書でやりなおし


まず知識量でいうと、知っている単語の数は目標と比べて全然少ないと思います。
SVL12000という非常に優れた目安があるので、いま自分がどの辺にいるかを確認してみてください。
レベル5で「大学受験前に覚える英単語」とあるので試しに見てみると、おそらく知らない単語がけっこう混じっててびっくりするはずです。
でも、レベル3でさえ知らない単語があるのが普通だと思うのであまり気にしなくても構いません。


逆に文法の知識は受験レベルで十分。
当面は改めて文法を勉強する必要はないです。
高校でさんざんやったと思います、分詞構文の書き換えとか関係副詞とか。
あれが漠然としてでも記憶に残っているなら、改めて文法を“理解する”必要はとりあえずないです。
なんていうか、英文を書くなら本当に文法を理解してないとダメだけど、リーディングのためだけならそこまでちゃんと理解してなくても大丈夫。
復習程度にさらっと文法問題集なんかを眺めたら文法についてはひとまず終了でOK。


一方、瞬発力のほうは単語も文法もまったくないに等しいと思って間違いないです。
したがって、ペーパーバックを読むためには新たに単語を仕入れつつ、単語と文法に対する反射神経を養う必要があるということです。


3.読みたい英文をとりあえず読んじゃう
リーディングの入り口は2つあって、一つは学習者向けのGR(語彙制限本)から始める方法、もう一つはペーパーバックとか英字新聞とか自分の読みたい英文をいきなり読んじゃう方法があります。
でもって、受験で英語が得意だったなら四の五の言わずにとりあえず読みたい英文を読んじゃったほうがいいです。
なぜなら、モチベーションが続かないから。


そもそもペーパーバックを読んでみたいと思った時点で、かなりの本好き・活字中毒でしょう。
だから、必要とあらば地道に英語の勉強をする覚悟はもちろんできてるけども、いますぐ華麗に英文を読んでもみたいはずです。
もし、この“読みたい英文を読むこと”が自分にとって苦痛だったり好奇心を満たさないなら、おとなしくGRから始めましょう。
とりたてて英語で読みたいものはないしとりあえず英語学習サイトで紹介されてるから英字新聞でも読んでみるか、とかそういうのはやめたほうが無難です。


こうやって読みたい英文を読んでいくと、確実に辞書と首っ引きになります。
まさに精読というか、少なくとも多読になんてけっしてならない。1時間に数ページ読めるかどうか、そんなスピードなはずです。
ただ、読み進めていくと分からない単語はたくさん出てくる反面、分からない文法事項はそんなに出てこないでしょう。たぶん。
ここが“受験で英語が得意だった”ということの有利なところ。
英語が得意じゃなければそもそも英文を辞書使って読むのさえ難しいんですから、1時間に2〜3ページ読めるだけでもすごいことなのです。
自分が本当に読みたい内容ならそんな遅い速度でも挫折しないと思うので、そのままどんどん続けてください。


4.GRも読めるなら読んでおきたい
ところがそんなスピードでゆっくり読んでいくとぜんぜん英文の量がこなせない。
英語表現の知識は少しずつ増えていくにしても、なかなか瞬発力が身に付かないのです。


だから並行してGR(語彙制限本)多読にも挑戦することはかなりのおすすめです。GR(語彙制限本)について


人間一度にいろんなことを同時にできたら苦労しないのですが、できる範囲内でなら同時にいろんな学習をするのはありです。
GRは薄いし中身の割にけっこうな値段がするので読書好きには人気がありませんが、英語学習と割り切ればこんなにいい教材はありません。
どんなものか書店でちょっと立ち読みしてみるとか、ためしに1〜2冊だけ買ってみるとかしてみてはどうでしょう。
もちろんレベル1から始めなくてもいいです。
なんとか興味がもてそうなものを選んで読んでみてください。
こんな簡単な本なんてばかばかしくてとても読めないよ、と思って手に取ったはずなのに、内容がつまらないせいではなく英語で書かれているというだけの理由でスムーズに読めないはずです。
いくら辞書・文法書の助けを借りずに読めるとはいえ、こんな簡単な英文でさえ読む速度が遅いのです。


これは、読んだGRレベルに見合った単語・熟語・文法などの英語知識を持ってはいるけれど、英語を見てもパッとすぐに内容のイメージが思い浮かばないし、瞬発力がない状態なわけです。
この瞬発力はたくさん英文を読んで身に付きます。
だから、読みたい英文をちまちま読んでいるだけだとなかなか“よく出る表現”にたくさん出会えない、そうなると“よく出る表現”になかなか慣れることができないのです。


GR多読とは、そんな“よく出る表現”に強制的に優先的に数多く触れる手段だと割り切るといいと思います。
GR多読を必ずやらなければいけないということはありませんが、もし読みたい英文が1分間で100語(100WPM)以下のペースでしか読めなくて停滞しているようなら、GR多読が効く可能性は高いです。


5.単語帳の効用
ペ−パーバックを読むうえで、どうやって単語・熟語などの英語表現に出会って覚えるかは重要です。
通常は英文を読む中でそのつど調べて覚えていくわけですが、もう一つ単語帳という方法があります。


単語帳は多読開始直後は必須ではありません。
ある程度多読ができるようになって、それでも未知語が次々に出てくることにうんざりし始めたら、人によっては自然と単語帳を使う気になると思います。
そんなとき単語帳を使うと効果があります。
なにかと不要論のある単語帳ですが、それは単語帳単独でなんとなく無目的に使うから効果がないのであって、多読と組み合わせて使用し、よりスムーズな多読のために単語帳を使うという動機があればちゃんと役に立ちます。


さて、ここでのポイントは単語帳の中身を完璧に覚えようとしないこと。
単語を覚えること自体は多読で達成します。
だから極端な話、単語帳に出てきた単語が意味は分からないけど字面だけはなんとなく見覚えがある状態になればそれだけで十分なのです。


ここでの単語帳の効用は、

  • 未知語は無限に出てくるので、単語帳によって自分が当面覚えようとする単語の範囲を制限すること
  • 単語帳で強制的に、また人工的に繰り返し出会うことで、記憶のとっかかりを作ること

の2点です。


単語帳を使うときは、“単語帳で単語を完璧に覚える”なんてことを考えてはいけません。
より詳しいニュアンスは多読で覚えるのですから、単語帳は軽い気持ちで終わらせればいいのです。
単語の暗記全体を見渡すか、それとも一つずつ地道に攻めるか疑問のないところに理解はない


6.いかに英語表現を仕入れ、覚えて、整理するか
それでは、GR・ペーパーバック多読でどんな英語表現が出てくるか見てみましょう。


受験で覚えた英語表現
まずは受験で覚えた単語・熟語が基礎になります。
ほとんど忘れていてもGRのレベル1は読めますが、できれば受験程度までは知識を回復しておきたいところです。


受験で覚えたけどペーパーバック小説では違う使われ方をする表現
受験で覚えた単語が実際の英文では違う意味で登場することがよくあります。
このため受験知識と実際の用例との摺合せを、英文を読んで自然と行なっていきます。


受験には出てこないけどペーパーバック小説では当たり前に使われる表現
このへんから本格的に“生きた英語”の勉強っぽくなってきます。
英文を読んだら飽きるくらい出てくる単語は、単語帳を使って覚える必要などありません。


専門用語
自分が読みたいジャンルによって、一般的な出現頻度とは別に偏ってたくさん出てくる単語があります。
こういう単語は多読しながらの整理が必要です。


また、専門用語以外にも自分で気になったパターンは串刺し式にジャンル分けして単語を整理していきます。


熟語とイディオム
単語以外にも英語表現はたくさんあります。
熟語やイディオムなど、決まった言い回しです。


どうでもいいけど、SIL6000って微妙でしたよね。


話し言葉(口語)
話し言葉はこれといった学習法がないのでやっかいです。
このような会話口調・口語体の表現は、映画やドラマにもたくさんでてくるので意外なところで役に立ちます。
もっとも、小説や映画・ドラマで使われる話し言葉が、普段の日常会話でも当たり前に使われるかどうかという点には注意が必要ですが。


SVL12000はレベル10くらいまでほぼ全部
こんな感じで英語表現を積み上げながら、SVL12000のレベル10くらいまで覚えていきます。
レベル11〜12は小説に出るものと出ないものが混在しているので、リストから漏れた“難単語”のほうがたくさん出現したりします。

SVL12000に含まれていない英単語で、各種文献を参照して重要と思われるものを、ABC順にご紹介していきます。
英単語の部屋〜英単語リスト

ここまで勉強しても語彙力不足は常に感じるものです。
洋書を読み続ける限り、完璧を感じることはなさそうです。


7.最初は加点式で、慣れたら減点式で
英文読み始めのころは、知ってる単語が英文中に出てきたらそれだけでOKです。
文法も分からないことがあれば飛ばせばいいんです。
“英文を理解している”という基準も緩くていいです。誤読してようが何だろうが関係ありません。
堂々と「自分は英語が読める」と思っていきましょう。
どうせ嫌でも「そんなんで読めたと思うな」っていう完璧主義の声が聞こえてきますから。

言語学習というものは、これでいいと開き直ったらそこですべてが止まることを認識しているのかと首を傾げたくなる。
第22回 大野流英語論2‐大野和基ホームページ

もちろんさらに上手く読めるようになろうと思いながらも、「今までにかけた時間・労力のなかでは最大限よくやってる」と考えていきましょう。


十分英語に慣れてきたら、英語を正確に読むことが大変なのも分かるようになります。
気軽に「英語が読める」と言えなくなってくるのです。
なぜならどれだけ読んでも、知らない英語表現が次々に出てくるからです。
分かってると思っていたけど実は分かっていなかった箇所があることにも気付くからです。
だからここまで来たら減点式で考えてもいいと思います。「あ、ここの部分は今まで適当に単語つないで読んでたな」という感じで。
そのために例えば文法をもう一度ちゃんとやる機会を作るのも良いでしょう。絶対抜けてる部分がありますから。
そうやって知らない英語知識を地道に潰していくと、必ず「英語をそれなりに理解している(まだまだ足りないけど)」と自信を持って言えるようになります。


〜まとめ〜
ここまで、受験で英語が得意だった人がペーパーバックを読めるようになる学習法を書いてきました。
大事なのは、英語が苦手な人にとってはこんなの学習法でもなんでもないという現実。
なんせ、挫折しそうな人は対象からあらかじめ排除しておいてあとはひたすらやるだけ、やればいい、やれば慣れる、という方法ですから。
ところが英語が得意な人は多かれ少なかれこんな感じで英文が読めるようになっていく、というのも事実なのです。


ここから分かることは、よくあるリーディング学習法というのがいかに都合がいいか、いかに英語が苦手な人向けではないか、ということです。
例えば、もう一度読んでもらうとわかると思いますが、この方法では結果的に精読と多読を並行して行なっています。
また、精読は自分のレベルより難しいもの、多読は自分のレベルより簡単なものを選んでいます。
つまり、よく聞く多読と精読のアドバイスは、英語が得意な人による英語が得意な人のための学習法なのです。多読と精読精読はできて当然なのか
したがって、読み手もそうした学習法を額面通りに受け取ることなく、自分にできるところだけをいいとこどりで組み合わせていくことが大切です。