ペーパーバックを読むための定型表現

ペーパーバックを読むために単語と同じくらい勉強しなければいけないのが定型表現です。
ここには句動詞・熟語・慣用句やイディオム全てを含みます。
ここでポイントが2つあります。


1.定型表現であることに気付けるかどうか
She has quit smoking once and for all.
この英文を読んだ人がonce and for allという熟語を知らない場合、果たしてこれがひとかたまりで特定の意味になる定型表現だと気付くことは可能でしょうか。


これは人によって感覚が違うので一概には言えませんが、ある定型表現を知らなくても字面からなんとなくこれは熟語かな?と思えれば、辞書で調べてみることができます。
しかし、簡単な単語の組み合わせでできた表現は、なかなか定型表現だと気付きづらいことが多いのです。
特に、分からない表現を飛ばすいわゆる“多読”をしていると難しいでしょう。
“簡単な単語だけでできた文なのに全体としては何を言っているかさっぱり分からない現象”の原因の一つはこれです。


2.定型表現を覚えられるかどうか
それが定型表現だと認識できたとして、次に覚えることができるかどうかが重要です。
この時、英単語の暗記と同じように、記憶のとっかかりになるものがどれだけあるかによって困難の度合いが増します。


(1)文字通りの意味のもの
Too good to be true.(話が出来すぎでうそくさい)
First things first.(大事なことから順番に処理していこう)


文字通りの意味と実際の意味がそれほどかけ離れていない種類のものは、1〜2回出会えば覚えることもそれほど難しくはありません。


(2)難しい単語や多義語によって特殊な意味になるもの
go awry(失敗する)
make a fuss(騒ぎ立てる)
as he put it(彼が言ったように)


たぶん英語やり直しはじめならawryfussという単語をそもそも知らないでしょうしput itで「言う・表現する」という意味になることも初耳だと思うので、もっとたくさん単語を覚えていくうちに自然とこういう表現に出会うはずです。
逆に言うと、たくさんの単語に自然と出会う前の段階でこうした定型表現を覚えようと必死にならなくても良いということです。


(3)とんちのようになっていて、語源・直訳などから意味が思い出せるもの
You're barking up the wrong tree.(君の言ってることは全くの見当違いだ)
Will you get to the point? Stop beating around the bush.(要するに何が言いたいの?)


語源が思い出せるかどうかは主観的なものですが、bark up the wrong tree(間違った木を見上げて吠える=的外れ)とかbeat around the bush(薮の周りをつついて回る=遠回しに言う)のように、直訳からでも意味が思い出せる表現があります。
こうした表現は2度目に出会ったときでも辞書を調べなくていいので、記憶の定着力が強いです。


「映画に登場するユーモア表現150」とか「絶対にこれだけは覚えておきたいイディオム300」とかそういった類の本を見てみると、だいたいこの手の表現がたくさん載っています。
しかし、これら機知に富んだような表現が必ずしも小説に頻出すると言うわけではないので注意が必要です。


(4)文字と意味がかけ離れていて、意味が想像できないもの
You got me.(さっぱり分からん)
There you are.(その調子!)


ここまで来ると、覚えるのは相当難しいです。しかも、覚えづらいだけではなくてそもそも定型表現であることに気付かない可能性すらあるのがやっかいなところです(これまた人によりますが)。
特に会話口調はこの字面から意味が想像できないパターンが多いです。
英語学習者にとって会話口調が難しい気がする理由の一つはここにあると思っています。
「いざというとき役に立つとっさの一言500」とか「ネイティブならこう表現する800」とかそういった類の本を見てみると、これまたこの手の表現がたくさん載っています。
しかし、これらの表現が必ずしもすべて小説に頻出すると言うわけではないので注意が必要です。

ペーパーバックを読むためならイディオム集は不要

英語のイディオム集はたくさん出版されています。
発信型英語スーパー口語表現
しかし、これから大衆小説を読もうとしている人には、とりあえずこうしたイディオム集は不要です。


1.出てこない
イディオム集に載っている表現の中には、大衆小説を基準にすると出現頻度がとても低いものがかなりの量含まれています。
代表的なのは、客寄せ用の“kick the bucket”みたいなとんち系表現、それから“eat like a horse”のような動物系比喩です。
これはおそらく新聞と小説では使われる表現が違うこと、さらに書き言葉と話し言葉のどちらに重点を置くかでズレがあることが原因だと思います。


2.載ってない
代わりに、これから洋書を読んでみようと考えている人が真っ先に知っておいたほうが良いと思われる表現が載っていません。
例)That's all there is to it.
例)There is more to it than that.
これらの文が定型表現だということを知らない人が読めば、単語は全部分かるのに全体ではさっぱり意味が分からない、精読パワーで文法的に解読しようとしてもお手上げとなります。
しかし、洋書を読みなれている人でこうした表現を知らない人はまずいないと思います。それくらいありきたりな表現です。
こういう頻出表現がなぜか市販のイディオム集に載っていないことが多いです。
書き言葉だけに限定して口語は載せてない、というわけでもなさそうなんですよね。


3.覚えられない
出現頻度が低い表現は、せっかくイディオム集で覚えても実際に英文の中で出会う頃にはたぶん忘れています。


4.初心者向けではない
そこまで出現頻度の低い表現の知識を維持しようと思ったら、相当な量の英文を常日頃読む必要があります。
しかしそんなことは初心者にはできません。
また、最初はイディオム集のイディオムを覚えるよりも先にやることがたくさんあるので、この点でも最初のうちはイディオム集は不要です。


もちろん使える表現集もありますので、必要が出てきたらなるべく口語表現がたくさん載っているものを選ぶといいと思います。