「英語で喧嘩できます(笑)」の“(笑)”について

前回、英語にまつわる痛快エピソードについて書きました。〔痛快で分かりやすいエピソードは参考にならない
今回はその具体例、「英語で喧嘩できる」というエピソードを詳しく見てみます。


1.英語で喧嘩できるようになったら一人前
まず前提として、「英語で喧嘩できるようになったら一人前だ」という見方があるようです。


英語でケンカ、やってみる? その1‐AtoZ English

外国語習得は「ケンカができるようになったら一人前」と言われることがあります。頭に血がのぼっているときでも英語がでてくるのは、習熟度が高い証拠というわけなのでしょう。


2.英語で喧嘩できるようになることが目標
英語で喧嘩できるようになったら一人前、という見方に影響されてかどうかは知りませんが、英語で喧嘩できるようになることが目標になることがあります。


我が愛する宮田健吉‐SERENA

先生はよく時事的内容の話をしてくださった。
そして大抵こう締めくくる
“いつかお前たちもアメリカの奴と英語で喧嘩するようになれよ”と。
日本人は英語で喧嘩できないのだ。
だからこそ、私たちにその実現の期待を寄せているのだ。


就職、結婚、出産、そして失脚の生活へ‐女性の転職ガイド!子持ち&バツイチ女が語る転職実践マニュアル!

そして私は、卒業してから1年後、とうとうイギリス留学を果たしたのです。そしてイギリスでは、「英語でケンカができるようになること」「英語でジョークが言えるようになること」を目標として、随分と頑張りました。それは、英語で物事を考える力がついていなければできないこと、それだけのレベルが必要なことだったからです。


英語のできない留学生‐異文化 海外留学 滞在記

かくいう私は、手前みそながら、貪欲に努めた方だと自負しています。「英語でケンカができ、ジョークを言って笑わせるレベル」を目標にして頑張りました。ある時は、クラスで私が当てられたのに勝手に発言した他の学生に腹を立て、授業中に口喧嘩を売ったこともありました。
そうしてどれくらい私の英語力があがったか。お仕事ができるレベルに到達しましたよ!


3.どれだけ英語に習熟しているかという基準
さらに、英語がどれほど巧みに使えるかという指標として「英語で喧嘩できる」ことが語られる場合もあります。


「カタカナ語の長音表記」について‐Japanese Phonology

著書の渡辺慧氏はハワイ大学の教授で、英語で喧嘩が出来る程、英語が旨い。


英語の語彙力パワーアップ教材

これであなたも例文を丸暗記することなく、ネイティブレベルの語彙力が身に付きます。英語で喧嘩だってできてしまうかも。それぐらい英語の語彙力がアップしますよ。


英語か読書か?‐元気が一番

英語なんて、大学までずっと赤点しか取ってなかったけど、米国企業に勤めたら英語で喧嘩できるようになったわ。必要はすべての母よね。


インパクト・イングリッシュ・カレッジ‐オーストラリア留学センター

そのおかげで思った以上に会話能力は伸び、オーストラリア人と英語で喧嘩もできました。


Q:臨界期を過ぎても英語を習得できるのでしょうか?‐New Leaf Productions

ですが、コツコツと継続的な努力を重ねることで英語を習得し、今では、ネイティブと英語で喧嘩をしても負けない自信があるほどに英語力を伸ばしてきました(実際私がアメリカ留学中にクラスの中でネイティブとディベートをしたときはで圧勝しました(^^;))。


英会話教室はフォーワードへ

フォーワード講師は英会話留学なんてしていないんです。それでも、ネイティブと英語でケンカもでき、自分の英会話学校を持てるようになりました


4.英語で喧嘩できないと英語ができるとはいえない
英語で喧嘩できれば一人前、よし英語で喧嘩できるように頑張っちゃうぞ!という話が発展した結果、「英語で喧嘩できなければ英語が使えるとはいえない」「どんどん喧嘩しろ」という結論にもなるようです。


第21回 「喧嘩は拳ではなく、言葉だ!!!」‐LaLaLa LasVegas

だから、英語で寝言が言えて、英語で喧嘩が出来て、英語のエロティックなジョークがわかる時に初めて、英語をマスターしたと言われました。


村上式シンプル英語勉強法—使える英語を、本気で身につける‐玲瓏

…私は英語で喧嘩ができない限りは英語でのコミュニケーションができるとは言えないと思うので、まだまだ先は長い。

英語で喧嘩するイチロー選手‐カナダジャーナル デイリーブログ

だから、英会話力をアップさせたい人は、しりごみしないで、英語で喧嘩や討論をどんどんやるべき・・・・


5.英語で喧嘩できるとカッコいい、という設定
英語で喧嘩できると一人前、英語で喧嘩できるようになりたい、英語で喧嘩できないとだめだ、という考え方に関連して、「英語で喧嘩できるとカッコいい」という価値観が存在します。
え?そんなの知らないって?
いや私も知りませんでした。


夫婦喧嘩は犬も食わない‐自称カリスマ英語講師の雑話日記

それにしても英語で夫婦喧嘩・・・カッコイ〜・・・彼女英語ウメ〜な・・・


ソニーの屋台骨支える“ニューヨークマフィア”‐nikkei BPnet

その代表格が6月29日付で社長兼最高執行責任者(COO)に就いた安藤国威(58歳)だろう。気さくな人柄と親しみやすい風貌からは想像しにくいが、安藤は周囲の関係者が「ソニー社内でも有数」と口を揃える語学力の持ち主だ。東京大学経済学部を卒業し、ソニーに入社したのは1969年4月、27歳の春で、浪人や留年を繰り返していたわけではなく、本人いわく「しばらく米国で遊学していた」。
今後は「英語で喧嘩できる数少ない人材」という前評判を証明してみせる機会も、ケタ外れに多くなるはずだ。

ここで語られるのは、登場人物の一行プロフィールのような、類型的で簡潔な「カッコいい」設定。
社内でも有数の語学力、という設定を説明するのに最も分かりやすく端的な説明は、タフなビジネスシーンにおいてもガイジン相手に臆することなく“英語で喧嘩できる”ことなのです。
中学生か。


ソニーの屋台骨支える“ニューヨークマフィア”‐nikkei BPnet

「ニューヨークマフィア」。ソニーの中で、若干の畏敬の念を込めて、そう呼ばれている集団がある。若かりし頃、何らかの形で米国生活を経験し、英語に堪能なのはもちろん、日本人としては珍しく豊富な海外人脈を誇る。

ベッタベタな設定が好まれる場合があることは、こうした書き方からも良く分かります。
極めて漫画的で分かりやすいストーリーの中でこそ、「英語で喧嘩」というエピソードが生きてくるのです。


白洲次郎マッカーサーを怒鳴りつけるなど、英語で喧嘩できるほどの語学力を武器に進駐軍と対等に渡り合った』
というのも、てっとり早くまとめた人物評の形式例。


マスコミが報じない麻生太郎、知っていますか??‐テレビにだまされないぞぉ

英語で喧嘩(けんか)できるので海外の(クレー射撃の)試合でも審判とも堂々と渡り合っていた。

という用例も。


6.自虐風自慢的に「英語で喧嘩できます(笑)」
最後に、「英語で喧嘩できます(笑)」という表現について考えてみます。


キャスフィ

あと↑の人も言ってるけど外国人を前にしても躊躇なく話せるようになった。英語で喧嘩もできるようになったし(笑)


必修208パターンを理屈で覚える!レビュー

私は寝ながら聞いていますがとりあえず、小うるさいインド人の上司とも英語でけんかできるくらいにはなりました。(笑)

独学・英語勉強法教えて!goo

ちなみにさっき言った先生は、帰国子女じゃないのに英語をマスターし、外国人と英語で喧嘩するほどです。(笑)


上の文脈において、「英語で電話できます(笑)」「字幕なしで映画が見れます(笑)」「TOEICで970点です(笑)」「洋書で多読してます(笑)」とは言わないと思います。
なのに、「英語で喧嘩できます(笑)」だと“(笑)”がつくのはなぜなのか考えてみたところ、なんとなく思いついた理由は以下の通りとなりました。

  • 英語ができるという基準がよくある英検とかTOEICとかじゃなくてよりにもよって英語で喧嘩できるってのが独特で面白いよね(笑)
  • 持てる英語力を駆使して結局喧嘩のために使うとか(笑)才能の無駄遣い(笑)方向性間違えてる自分だっさ(笑)
  • でも、そんなところが並の日本人と違って個性的だって褒めて!


つまり、“(笑)”をつけちゃう人は学校英語vs使える英語という対比に捕らわれすぎているせいで英語を真正面から勉強するのが馬鹿くさい・恥ずかしいんじゃないかと思うのです。
だからこそ英語ができない世間一般とは違った方法で、違った尺度でしか測れない違った次元の英語を話せるようになりたい。
要するに英語が話せるようになってカッコよくなりたい。
なので、英語で喧嘩できるようになるまでに積み上げた地味な作業について語られることは一切ないのです。
そしてそんな語り口がちょっとだけ胡散臭いのです。
素面でニューヨークマフィアとか言っちゃう語り口と同じように。


このような途中経過がないという胡散臭さは、英語教材のうたい文句に通じるところがあります。


◇あなたも今日から英語が話せる!‐中年男の苦渋の決断!

日本人ほど勤勉に英語の勉強にお金と時間を費やしている国民もありません
いったいいつになったらあなたは英語が話せるようになるのでしょうか
今でこそアメリカ人の主人と毎日英語で喧嘩していますが(笑)
かつては私も英語が話せませんでした。


今度英語にまつわる“(笑)”を見かけたら、是非一度どんな“(笑)”なのか考えてみてください。