【ネタバレ】キリスト教原理主義の恐怖! Ice/Shane Johnson

Ice

Ice

面白さ★★
易しさ★★★


表紙はアポロ12号の操縦士アラン・ビーン作画。
まだ多読初期の頃にアポロ関連というだけで買って積読状態になっていた本でした。
ようやく読む気になって読んでみたら、これがすさまじいまでのトンデモ本だったのです!


もう、このトンデモ振りを説明するにはネタバレするしかありません。
でもこの本をあえて読む人はいなさそうなので全部書いちゃいます。
ちなみに、サブタイトルの「The Greatest Truths Hide in the Darkest Shadows」というのが一体何のことを言っているのかは、読んでみるとわかります。


<あらすじ>
アポロ19号の月面探査もいよいよ完了となり、いざ帰ろうという矢先、帰還用エンジンがどうやっても点火しない。
さんざん頑張ったけど結局だめ。
で、どうせ死ぬならいっちょ月面探査車で遠くまでかっ飛ばせばいいじゃんと爆走する2人の宇宙飛行士。(月面探査は船長と操縦士の2人で行う)
船長はそんなにキリスト教を熱心に信仰していないが、操縦士は月面まで聖書を肌身離さず持ってきたくらいの信仰の篤い男。
ちょいちょい船長に向かってキリスト教の教えについて熱く語る怪しげな伏線。


そうこうしているうちに、偶然にもかつて超科学文明が築いたと思しき月面基地の廃墟に迷い込んだ2人。
人っ子一人いない基地内で見つけた超科学文明人の死体はめっちゃ身長が高い!
ここでなぜか船長だけ超科学文明世界そのものに迷い込んでしまう。(操縦士はそのまま居残り)
どうなる船長!?


森の中で謎の生き物に追われたり、妻によく似た謎の女性を助けたり、その結果謎の牢獄に捕えられたり救い出されたり、謎の巨大倉庫の外壁を塗装する作業を手伝ったり、突然謎の大津波が来てその巨大倉庫が流されていくのをなすすべもなく見つめたり。
船長は謎の大津波の衝撃で再び月面の超科学文明基地に戻ってこれた、、、
が、戻ってきた月面基地は廃墟ではなくバリバリの現役。
どうやら月面基地が使われていた時代にタイムスリップしつつ瞬間移動してきてしまったらしく、「神様、俺を何とか元の世界に戻してくれ!」と祈りまくりの船長。
もちろん操縦士とは再開できぬまま。
その間、月面基地内の指令室のモニターには、大災害によって壊滅していく超科学文明の母星が映し出されていたのだった。


その頃、船長とはぐれた操縦士(キリスト狂)は廃墟の月面基地内を探索するうちに変なスイッチに触れてしまい、死を覚悟する。
水も食料も暖房も絶たれ、すがるのはもちろん聖書。持っててよかった聖書。パラパラめくって読んではニヤリ。
神のなされることにはすべて何らかの目的があるんだよ!と自らに言い聞かせる操縦士であった。


一方、地球にいる2人の妻は、すっかり夫が死んだもんだと思って打ちひしがれている。
なにせ全世界にアポロ19号の失敗が放映されていますから。
操縦士の妻は夫に負けずこれまた敬虔なクリスチャン、船長の妻はそうでもない。
でも気付いたら船長妻はいままで滅多に行かなかった教会に足しげく通って、夫の身に奇跡が起きることを祈る。
そこへ操縦士妻が偶然やってきて、「神様のなされることにはすべて深遠なる目的があるの」とかなんとかニコニコ顔で語り合う。


で場面は変わって、船長と操縦士の2人は無事に地球に帰ってきましたー、妻達の祈りは神に通じましたー、やったね!
〜 完 〜


という話で終わります。
最後に船長の推測による種明かし。

  • 聖書によると昔の人はデカかった。
  • 聖書によると昔の人は長生きだった。長生きなら科学技術の進歩は半端ないはず。
  • つまり俺が迷い込んだあの超科学文明世界はノアの方舟の時代の地球だったんだよ!
  • てか俺が外壁を塗ってた巨大倉庫はノアの方舟だったんだよ!
  • なんで月面に基地を作るほどの科学技術を持っていた彼らがノアの方舟をわざわざ木で作ったかといえば、やっぱ神の御心だよね!木って生命の象徴みたいなもんだし。
  • あの大津波は創世記に出てくる大洪水だったんだよ!
  • 聖書に書いてあることは一字一句全部本当だったんだよ!だって俺見てきたもん!
  • え?そもそも帰還用エンジンが点火しなかったのはなんでだったのかって?そりゃあ、やっぱ神の御心だよね。だって無事に点火して普通に地球に帰還してたら、おそらく俺も嫁も神を信じず仕舞いだったろ?




というわけでサブタイトルの「The Greatest Truths Hide in the Darkest Shadows」というのは、
月に行ったら神に出会えたんだよ!いや比喩じゃなくて本物のイエス・キリストだよ!
ということを指していたのでした。
作者あとがきで、このストーリーは聖書を丸ごと一字一句信じる立場から書いたんだということが切々と語られます。
なんというか、世の中には決して分かり合えない人がいるんだなというのがよく分かる1冊でした。