扶養控除廃止の影響を住宅ローン減税ですべてチャラにすることは不可能
- 扶養控除廃止により住宅ローン減税の効果高まる‐住宅ローン比較/住宅ローン金利比較ランキング
2010年4月29日
住宅ローン減税といえば、単純に言えば住宅ローン残高の1%を税金から差し引いてくれる減税策ですが、往々にして所得税より減税額の方が上回り、「余ってしまう・使い切れない」減税額があるようですね。
そういうケースでは、今回の扶養控除の廃止により所得税が増えるので、余っていた住宅ローン減税額を使い切ることにより、住宅ローン減税の効果を最大限活用できる、ということになりますね。
…(中略)…
年収400万円で住宅ローン残高が2,000万円の場合、10年間で57万円、住宅ローン減税額が増えることになります。1年あたり5万7,000円。1ヶ月あたり4,750円。言い換えれば、今までこの減税分を使いきれていなかったものが、扶養控除の廃止により使えるようになるわけですね。
結論から言うとこの記事は間違っているのですが、どの辺がおかしいのか実際に計算してみます。
検証
【条件】
2010年入居・ローン実行
ローン残額2,000万円
夫:収入400万円(社会保険料50万円)
妻:専業主婦
第一子:16才
第二子:10才
【結果】
- 扶養控除の廃止がなかった場合
計算上の所得税と住民税の10年間の合計額…728,000円
適用となる住宅ローン控除の10年間の合計額…340,000円
実際に支払う所得税と住民税の10年間の合計額…388,000円
- 扶養控除が廃止となる場合
計算上の所得税と住民税の10年間の合計額…1,155,500円
適用となる住宅ローン控除の10年間の合計額…655,000円
実際に支払う所得税と住民税の10年間の合計額…500,500円
(詳細は末尾の別表1〜3を参照)
比べてみると確かに住宅ローン控除額の減税額は34万円から65万円になっているので得したように思えます。
しかし、税金が72万円から115万円に増えているので、結果としては11万2500円の負担増です。
もちろん住宅ローン控除がなければ42万円の負担増なので住宅ローン控除はありがたいと言えなくもないですが、扶養控除廃止の影響をすべて吸収してくれるわけではありません。
ここで先ほどの記事の続きを読むと、さらに
繰り返しになりますが、これとは別に子ども手当てが支給されることになりますので、家計としては「Wでおいしい」ということになります。
気になった方はご自分の所得税額を調べてみてください。所得税額が住宅ローン減税額を上回るのであれば「住宅ローン減税を使いきれる」ということですね。
今後、使いきれる住宅ローン減税額が増えるわけですから、「もう少し住宅ローンの金額を増やそう」という動きが出てくるかもしれませんね。
というようなことが書いてあります。
なぜこの筆者が間違ったかというと、2点あります。
一つは住民税を計算から除外していること。
2009年末の時点で住民税の扶養控除も廃止とする、という方向性が打ち出されていますので、当然そのことも視野に入れなくてはいけないのに除外してしまっています。
もう一つは、記事の中で引用している大和総研の試算を誤って理解している点です。
そもそも引用元の読売新聞の記事では、
子ども手当の導入に伴い2010年度税制改正で所得税の扶養控除が一部廃止される影響で、平均的な年収の世帯で住宅ローン減税の効果が増すことが、大和総研の試算でわかった。
10年間の減税額が50万円以上拡大するケースがある。もともと子ども手当支給のための財源確保策として控除見直しが決まった経緯があるが、住宅ローンを抱える子育て世帯の一部には思わぬ恩恵となりそうだ。
と、あくまで「住宅ローン減税の効果が増す」としか書いていません。
にもかかわらず、なぜか
「効果が増す=余っている住宅ローン減税枠を使い切れる=お得!!」
というように都合よく脳内変換してしまったのです。
実際は住民税側の控除上限97,500円の壁があるため、使い切ることは難しいのですが。
この筆者は税金の話を「とかく難しい」「ややこしい」と言っています。
税金の話はとかく難しいですね。あれだけ制度が難しいのは、もちろん政治の思惑や圧力もあるのでしょうけれど、税理士・会計士といった士業の保護政策だと思うのは記者だけでしょうか。
さて、そんなややこしい税金の話題ですが、扶養控除が今年度廃止される影響で、住宅ローン減税の効果が高まるということです。
ならばちょっとは勉強してから記事を書けばいいのです。またはこんな風に自分で10年分計算して検証してみればいいのです。
それを、ロクに調べもせずになんだか分からないまま都合のいい記事を書いて、あげく「もう少し住宅ローンの金額を増やそうという動きが出てくるかもしれませんね」などと借り入れを増やしてもいいような印象を読者に与えるのはあまりにも無責任です。
「家計としてはWでおいしい」などと書いていますが、この筆者の頭がWでおかしいのです。
- 扶養控除廃止で増税はどのくらい?‐トチマガ|セキスイハイム中四国株式会社 山口支社
更新日:2011.05.18
扶養控除額の減額によって実質増税も住宅購入者にとっては住宅ローン控除がありますので増税分を取り戻せる可能性があります。
…(中略)…
平均的な年収の世帯では所得税額が住宅ローン減税分よりも少ないためにこれまで減税分を使いきれていませんでした。
しかし扶養控除廃止により増税した部分の所得税を住宅ローン控除で取り戻せる可能性がでてきたというわけです。
この記事も同様で、いくら住宅ローン控除のおかげで増税幅が減少するからといって、ローンを組むとこんなメリットがあるかも、というダシに使うのはやり過ぎです。
「可能性」とか「取り戻せることも」など言葉を選んでいるあたり、分かっててやってるんでしょうけど。
10年06月02日
税額が増えても 負担が増えないケースも
今年から子ども手当が導入されることに伴い、来年から扶養控除が廃止され、15歳以下の子どものいる世帯は所得税や住民税(2012年度から)が増える。だが、住宅ローン控除を利用していると増税分が全額戻り、増税にならないケースがあることが、タクトコンサルティングの試算で明らかになった。
税金の負担が増えず 子ども手当がもらえる
年収600万円の標準的なファミリーの場合、今の所得税額は10万1500円だが、扶養控除がないと17万7500円。住宅ローン控除はローン残高の1%が控除されるので、住民税からの控除分9万7500円も加えると、残高が2750万円以上なら増税分が全額戻る。「増税分がすべて戻れば、子ども手当がまるまる収入増になります」(同社・遠藤純一さん)
子どものいる世帯には、住宅ローン控除が強い味方になりそうだ。
こんなのも実際に計算してみればすぐに結果が分かります。
【条件】
夫:収入600万円(社会保険料75万円)
妻:専業主婦
第一子:15才
第二子:10才
【結果】
- 扶養控除の廃止がなかった場合
計算上の所得税と住民税の合計額…329,500円
適用となる住宅ローン控除の合計額…199,000円
実際に支払う所得税と住民税の合計額…130,500円
- 扶養控除が廃止となる場合
計算上の所得税と住民税の合計額…476,500円
適用となる住宅ローン控除の合計額…275,000円
実際に支払う所得税と住民税の合計額…201,500円
結局負担増になってます。
増税分が全額戻るというのは「所得税に限ってみればその通り」というだけで、住民税分は結局負担増です。
「試算で明らかになった」とかよく言うよ、という感じです。
税金の話は素人には分からない、という世間の認識を利用して、ならばテキトーに誤魔化してもかまわないだろ、という商売をする人がいるのが不動産業界。
建材の話は素人には分からない、施工の話は素人には分からない、という具合に消費者の知らないところで何かを誤魔化しているのでは?と一般人が不動産業界に不信感を持ってしまうのは、こういうセールスのやり方に原因の一端があるんじゃないかと思います。
- 別表1
所得税 | 第一子年齢 | 廃止前控除額 | 廃止後控除額 | 第二子年齢 | 廃止前控除額 | 廃止後控除額 |
2010 | 16才 | 630,000 | 630,000 | 10才 | 380,000 | 380,000 |
2011 | 17才 | 630,000 | 380,000 | 11才 | 380,000 | 0 |
2012 | 18才 | 630,000 | 380,000 | 12才 | 380,000 | 0 |
2013 | 19才 | 630,000 | 630,000 | 13才 | 380,000 | 0 |
2014 | 20才 | 630,000 | 630,000 | 14才 | 380,000 | 0 |
2015 | 21才 | 630,000 | 630,000 | 15才 | 380,000 | 0 |
2016 | 22才 | 630,000 | 630,000 | 16才 | 630,000 | 380,000 |
2017 | 23才 | 630,000 | 630,000 | 17才 | 630,000 | 380,000 |
2018 | 24才 | 380,000 | 380,000 | 18才 | 630,000 | 380,000 |
2019 | 25才 | 380,000 | 380,000 | 19才 | 630,000 | 630,000 |
- 別表2
控除廃止前 | 所得税額 | 住民税額 | 合計税額 | 住宅ローン控除額 | 実税額 |
2010年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2011年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2012年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2013年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2014年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2015年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2016年 | 7,000 | 41,000 | 48,000 | 14,000 | 34,000 |
2017年 | 7,000 | 41,000 | 48,000 | 14,000 | 34,000 |
2018年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2019年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
合計 | 170,000 | 558,000 | 728,000 | 340,000 | 388,000 |
“2010年”とは所得税2010年分/住民税2011年度のこと。
- 別表3
控除廃止後 | 所得税額 | 住民税額 | 合計税額 | 住宅ローン控除額 | 実税額 |
2010年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2011年 | 51,000 | 113,500 | 164,500 | 102,000 | 62,500 |
2012年 | 51,000 | 113,500 | 164,500 | 102,000 | 62,500 |
2013年 | 38,500 | 95,000 | 133,500 | 77,000 | 56,500 |
2014年 | 38,500 | 95,000 | 133,500 | 77,000 | 56,500 |
2015年 | 38,500 | 95,000 | 133,500 | 77,000 | 56,500 |
2016年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2017年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
2018年 | 32,000 | 78,000 | 110,000 | 64,000 | 46,000 |
2019年 | 19,500 | 59,500 | 79,000 | 39,000 | 40,000 |
合計 | 327,500 | 828,000 | 1,155,500 | 655,000 | 500,500 |
“2010年”とは所得税2010年分/住民税2011年度のこと。