The Right Stuff/Tom Wolfe

The Right Stuff

The Right Stuff

面白さ★★★★★
易しさ★★★

アメリカの有人宇宙飛行黎明期を、技術的な話ではなく宇宙飛行士たちとその家族を中心に描いた作品です。

この手の本はともすれば出来事とエピソードの寄せ集めになりかねないものですが、「ライト・スタッフ」では随所にきれいな対比が効いているためにとても読み易くて面白いストーリーになっています。


例えばカセットとCDの入れ替わり時期でいうなら、メタルカセットテープみたいな「すごい旧技術」とまだ黎明期で未知数の多い「これからの新技術」が共存する時期があります。このときに旧世代と新世代の間で力関係のバランスが移っていく過程が非常に面白い人間ドラマになります。

本書の場合だと、従来からの軍のテストパイロット達と新たに誕生した宇宙飛行士という対比を通して、マーキュリー計画にまつわる人間模様を立体的に浮かび上がらせているのです。
ソ連の謎の飛行主任が繰り出す魔術的パフォーマンスとアメリカ側の狼狽、という対比もあります)


また、宇宙飛行士といえども元はと言えば軍人なわけで、この視点から見るとこの「旧vs新」というのは単純な対比ではなくて連続しているんだよ、という指摘ももう一つ本書のすごいところです。

普通に考えると宇宙に行くなんて他に並ぶことのないぐらい突飛で新奇なことに思えます。しかし、軍のパイロットがより速く・より高く飛んで「正しい資質」を持っていることを周囲に証明する、という視点から見れば飛行機も宇宙飛行ロケットも同じものです。そして、宇宙飛行ロケットが宇宙に行くから新しくてスゴイというならば、古い技術代表の飛行機だってロケットエンジン積んで宇宙へ行ってる(X-15)のだから本質的な違いはありません。
見方一つ変えてやることで、この二つの技術に根本的な違いがなくなる、という視点がこの作品のもう一つのテーマといってもいいと思います。

危険と隣り合わせのテストパイロットとしての毎日を安月給のボロい住まいでおくる軍人とその家族、そして宇宙飛行士になることで急に得た名声・金。この2つは比較されてはいるものの、根っこのほうでは連続していて、逆に連続しているからこそ宇宙飛行士がそんな素晴らしい待遇を受けられることに納得できない人も出てくるのです。


傑作は読む人に新しい視点を提供するかどうかで決まると思うので、その意味で本書は間違いなく傑作です。そして、映画版もまた傑作です。

ライトスタッフ [DVD]